緩和ケアを受けている進行がん患者の身体症状に対する経皮的電気神経刺激の効果
Jiro Nakano , Koji Ishii , Takuya Fukushima , Shun Ishii , Kazumi Ueno , Emi Matsuura , Kaori Hashizume , Satoru Morishita , Koji Tanaka , Yoko Kusuba . Effects of transcutaneous electrical nerve stimulation on physical symptoms in advanced cancer patients receiving palliative care
International Journal of Rehabilitation Research 2020, 43:62–68
PMID: 32106174 DOI: 10.1097/MRR.0000000000000386
No.2021-12
執筆担当:医療法人社団三喜会 鶴巻温泉病院 大江健人
掲載:2021年4月27日
【論文の概要】
進行がん患者の抱える疼痛は、生活の質を著しく低下させる。中等度から重度のがん性疼痛に対する治療としてオピオイドが用いられるが、吐き気、嘔吐、便秘などのオピオイドの副作用によって、早期中止や鎮痛効果の不十分さにつながる可能性がある。本研究では、緩和ケアを受けている進行がん患者を対象に、痛みやその他の身体症状(疼痛、疲労、嘔吐、吐き気、不眠、食欲不振、身体的・情緒的機能)に対するTENSの効果を検討した。
緩和ケアを受けている進行がん患者20人を対象に、クロスオーバー試験にて、痛みやその他の身体的症状に対するTENSの効果が評価された。5日間のウォッシュアウト期間を挟んで5日間のフェーズで、患者はTENSまたは非TENSを受けた。TENSは、主に吐き気や呼吸困難に対しては背中の中央、痛みの起点と同じ皮膚上のレベルの背中(100Hz)、便秘に対しては両足関節(10Hz)の4点で行われ、強度は不快感のない最大強度にて理学療法士により1日1回、30分間行われた。
疼痛評価に関して、評価時の痛みの強さ、1日の平均的な痛みの強さの2点に加え、TENSフェーズの初日のみTENS直前(ベースライン)とTENS投与後0、60、120分にNRSにて測定した。また、カルテ上から血液データと、オピオイドレスキュー用量を使用した回数の合計を調べた。身体症状の評価には、European Organization for Research and Treatment (EORT) of Cancer Quality of Life Questionnaire-Core 15-Palliative Care (QLQ-C15-PAL)を用いた。
結果として、TENSにより、平均疼痛およびオピオイドレスキューの総投与回数が有意に減少した。TENSは、吐き気と食欲不振を改善する傾向があったが、便秘は改善しなかった。 血液学的、生化学的パラメーターには影響がなかった。
【解説】
本研究はパルス幅や総電荷量が不明であることや症例数が少ないことが課題であると思われるが、マルチチャンネルTENSを用い、平均疼痛およびオピオイドレスキューの総投与回数が有意に減少した事に加え、吐き気と食欲不振を改善する可能性を示唆したことを報告しており、臨床上で有益となる可能性がある。
がん性疼痛に対してTENSを用いた報告が増加しているが、その効果は明確にはなっていない1)。一方で近年は本研究のように、疼痛以外の症状に対するTENSの効果を検討した報告が増加してきている。また、癌性モデルラットへTENSを行うことで、エンドカンナビノイドシステムによって癌性疼痛の抑制が行える2)との報告もあり、これらの報告を踏まえるとがん患者に対するTENSは疼痛の軽減だけでなく吐き気や食欲の改善に有効な介入の一つとなる可能性がある。
【引用・参考文献】
1) Hurlow A, Bennett MI, Robb KA, Johnson MI, Simpson KH, Oxberry SG.
Transcutaneous electric nerve stimulation (TENS) for cancer pain in adults.
Cochrane Database of Systematic Reviews 2012, Issue 3. Art. No.: CD006276.
2) de Oliveira, Herick Ulisses, et al. Investigation of the Involvement of the Endocannabinoid System in TENS-Induced Antinociception. J. Pain Res. 21.7-8 ,2020: 820-835.
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