脊髄損傷者の運動回復を促進する皮質運動ニューロン可塑性
Corticospinal-motor neuronal plasticity promotes exercise-mediated recovery in humans with spinal cord injury
Hang Jin Jo, Monica A. Perez
Brain. 2020 May 1;143(5):1368-1382.
doi: 10.1093/brain/awaa052. PMID: 32355959; PMCID: PMC7534104.
No.2021-21
執筆担当:関西福祉科学大学 保健医療学部 リハビリテーション学科 梛野浩司
掲載:2021年8月16日
【論文の概要】
脊髄損傷後の機能回復には脊髄の可塑性を賦活し残存する随意筋群の能力を高めることが重要であり、そのためには主に運動療法が行われている。運動療法を通じて随意努力を行うことで神経ネットワークが賦活され脊髄損傷部位以遠の可塑性を引き起こし、機能性が向上することが認められている。また、随意努力に神経刺激を組み合わせることで機能向上を増大させることが示されていることから、大脳皮質の運動野を経頭蓋磁気刺激(TMS)を行い、刺激が脊髄の運動ニューロンに到達するタイミングで四肢末梢神経を刺激するという組み合わせ(paried corticospinal-motor neuronal stimulation; PCMS)がよりシナプス効率を高め機能向上を促進すると考えられている。
そこで本論文では生活期の不全脊髄損傷患者を無作為に10セッションの運動療法とPCMSを組みわせた群(PCMS+運動群、n=13)とsham-PCMSを組み合わせた群(sham-PCMS+運動群、n=12)の2群に割り付け検証した。さらに検証するためにPCMSのみの群(PCMS群、n=13)も設けた。
測定項目として、介入前後にmotor evoked potential; MEPとmaximal voluntary contraction; MVCを測定した。
結果、PCMS+運動群およびPCMS群では有意にMEP振幅が増大していた。sham-PCMS+運動群では介入前後で有意な差はなかった。MVCにおいても同様の結果が得られた。これらの結果は、6ヶ月後のフォローアップの時点でも維持されていた。
【解説】
繰り返し前シナプス電位と後シナプス電位が同期するとシナプス効率が向上する。このことからPCMSは脊髄シナプス可塑性を引き起こす方法で、皮質からの刺激と末梢からの刺激が同期することでNMDA受容体の活動性を高め、LTD様の変化を引き起こすものである1,2)。本論文ではPCMS後にMEPおよびMVCの向上を認めていることから脊髄内でのシナプス効率が向上し筋力の発揮に貢献していることが理解できる。しかし機能的な評価も行なっているが、残念ながらPCMS+運動群、PCMS群、sham群の間に有意な差を認めていない。このことについて、特に手指の巧緻性については皮質脊髄路以外の関与も大きく3)まだわからないことも多いため、単純な皮質脊髄路のシナプス効率の向上だけでは機能向上に繋がらないことを示唆している。
今後もこの分野での研究が期待される。
【引用・参考文献】
1) Bunday KL, Perez MA. Motor recovery after spinal cord injury enhanced by strengthening corticospinal synaptic transmission. Curr Biol. 2012 Dec 18;22(24):2355-61. doi: 10.1016/j.cub.2012.10.046. Epub 2012 Nov 29. Erratum in: Curr Biol. 2013 Jan 7;23(1):94. PMID: 23200989; PMCID: PMC3742448.
2) Bunday KL, Urbin MA, Perez MA. Potentiating paired corticospinal-motoneuronal plasticity after spinal cord injury. Brain Stimul. 2018 Sep-Oct;11(5):1083-1092. doi: 10.1016/j.brs.2018.05.006. Epub 2018 May 9. PMID: 29848448.
3) Bunday KL, Tazoe T, Rothwell JC, Perez MA. Subcortical control of precision grip after human spinal cord injury. J Neurosci. 2014 May 21;34(21):7341-50. doi: 10.1523/JNEUROSCI.0390-14.2014. PMID: 24849366; PMCID: PMC4028504.
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