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難治性胃食道逆流症に対する自律神経経路を介した経皮的電気刺激と深呼吸の併用による改善効果について

Ameliorating Effects of Transcutaneous Electrical Acustimulation Combined With Deep Breathing Training

Won Choi Suk, Su Jin Kim, Dong Sik Chang, and Ho Yun Lee

Neuromodulation 2019 Aug;22(6):751-757.

PMID: 31347247 PMCID: PMC6771489 DOI: 10.1111/ner.13021


No.2024-04

執筆担当: 福井 直樹 和歌山リハビリテーション専門職大学

掲載:2024年7月30日


【論文の概要】

胃食道逆流症とは、胃や十二指腸の内容物が食道へ逆流し、消化器症状や食道粘膜の傷害を引き起こす病気である。胸やけや逆流は胃食道逆流症が「典型的な」症状となっている。

中国では鍼灸治療が消化器疾患の治療に用いられており、胃食道逆流症を含む機能性ディスペプシアの治療も行われている。特に機能性ディスペプシアに対して、図三里と内関への鍼治療または電気鍼治療が吐き気、嘔吐、その他の腹部症状を効果的に緩和することを示す報告が多数ある(1)。図三里と内関での経皮電気刺激法は、胃食道逆流症、機能性ディスペプシア、術後回復期の患者の症状や運動性を改善できる(2)。経皮電気刺激法は迷走神経の活動を高め、交感神経の活動を抑制することにより、消化不良の症状を改善することが報告されている(1)。

深呼吸トレーニングは、副交感神経系の緊張を高めると考えられており、多くの心理療法、認知療法、代替療法で頻繁に用いられている。このような療法は、過敏性腸症候群のような慢性内臓痛症候群の治療において、エビデンスがある。自律神経系(ANS)の副交感神経が、コリン作動性抗炎症経路を通じて、抗過敏性効果を媒介する可能性を示唆するエビデンスが増えている。最近の研究では、深部吸気トレーニングが、胃食道逆流症に苦しむ患者の過敏性腸症候群に関連する腹痛の症状や食道知覚過敏の状況を著しく改善することが報告されている(3)。

これら経皮電気刺激法または深呼吸トレーニング単独で消化不良や胃食道逆流症の症状を改善することが報告されているが、2つの併用が胃食道逆流症または胃食道逆流症の治療において相乗効果をもたらすかどうかは不明であった。そこで、この研究では、胃食道逆流症患者において、経皮電気刺激法と深呼吸トレーニングの併用が胃食道逆流症症状や食道運動、自律神経機能に関連するメカニズムに対して相乗効果をもたらすかどうか検討した。

対象は標準的なプロトンポンプ阻害剤(PPI)治療に8〜12週間反応しない難治性胃食道逆流症患者21名(男性7名、女性14名)。介入は、経皮的電気刺激と深呼吸トレーニングの併用を行い、経脾的電気刺激は、図三里と内関の経穴に対して25 Hz、5 mAで30分間、1日2回の電気刺激を行い、深呼吸トレーニングはは腹式深呼吸を実施した。比較対は3グループに分けて行った。グループA:エソメプラゾールのみを服用。グループB:経皮電気刺激 + 深呼吸トレーニング + エソメプラゾールの併用。グループC:偽経皮電気刺激 + 深呼吸トレーニング + エソメプラゾールの併用。結果、グループBはグループCに比べて有意に低いRDQスコアとDeMeesterスコアを出し、下部食道括約筋圧が増加した(p < 0.05)。また自律神経機能はLF + HF比においてグループAと比較してグループBおよびCで減少し(p = 0.010, p = 0.042)、HF/(LF + HF)比はグループBおよびCで有意に増加した(p = 0.010, p = 0.042)。グループBおよびCの血清AchはグループAよりも有意に高く(p = 0.022, p = 0.046)、血清一酸化窒素は有意に低くなった(p = 0.010, p = 0.027)。


【解説】

この研究では、経皮電気刺激法と深呼吸トレーニングの併用により、下部食道括約筋圧が有意に増加し、酸の逆流が減少し、胃食道逆流症の臨床症状が改善されることを見いだした。経皮電気刺激法の併用療法は調査したパラメータのほぼすべての面で効果があった。逆流の改善は、自律神経および腸管メカニズムを介した下部食道括約筋圧の上昇に起因すると考えられる。

現在、多くの胃食道逆流症患者が、有効な治療法がないために逆流症状に悩まされているが、そのメカニズムは解明されていない(4-5)。逆流防止バリアの弱体化、腸管神経機能異常、自律神経機能異常が胃食道逆流症に大きく関与している可能性がある。Liuらは、機能性ディスペプシア患者において、図三里および内関の両方での経皮電気刺激法が、交感神経の活動を抑制し、迷走神経の緊張を高めることにより、膨満感の緩和と消化不良の改善に有効であることを明らかにしている(1)。また、深呼吸トレーニングは腹圧、食道胃接合部の機能、下部食道括約筋の圧を改善することが報告されている.深部吸気は主に横隔膜の収縮と弛緩で構成され、特に横隔膜の下降ドームは下部食道括約筋の圧力を強化する。この研究データもこの効果を支持するものとなった。

経皮電気刺激法と深呼吸トレーニングの併用は、自律神経および腸管メカニズムを介した下部食道括約筋圧の増加によって、胃食道逆流症患者の逆流を効果的に緩和する可能性があると思われる。


【引用・参考文献】

1.Liu S, Peng S, Hou X, Ke M, Chen J. Transcutaneous electroacupuncture improves dyspeptic symptoms and increases high frequency heart rate variability in patients with functional dyspepsia. Neurogastroenterol Motil 2010;20:1204–1211.

2.Zhang B, Xu F, Hu P et al. Needleless transcutaneous electrical acustimulation: a pilot study evaluating improvement in post‐operative recovery. Am J Gastroenterol 2018;113:1026–1035.

3.Botha C, Farmer AD, Nilsson M et al. Preliminary report: modulation of parasympathetic nervous system tone influences oesophageal pain hypersensitivity. Gut 2015;64:611–617.

4.Xiao Y, Liang M, Peng S, Zhang N, Chen M. Tailored therapy for the refractory GERD patients by combined multichannel intraluminal impedance‐pH monitoring. J Gastroenterol Hepatol 2016;31:350–354.

5.Kahrilas PJ, Keefer L, Pandolfino JE. Patients with refractory reflux symptoms: what do they have and how should they be managed? Neurogastroenterol Motil 2015;27:1195–1201.

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