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亜急性期虚血性脳卒中患者における経皮的耳介迷走神経刺激による上肢運動機能回復への安全性と効果

亜急性期虚血性脳卒中患者における経皮的耳介迷走神経刺激による上肢運動機能回復への安全性と効果


Effect and Safety of Transcutaneous Auricular Vagus Nerve Stimulation on Recovery of Upper Limb Motor Function in Subacute Ischemic Stroke Patients: A Randomized Pilot Study

Dandong Wu , Jingxi Ma, Liping Zhang, Sanrong Wang , Botao Tan, Gongwei Jia

Neural Plast. 2020 Aug 1;2020:8841752.

doi: 10.1155/2020/8841752. PMID: 32802039; PMCID: PMC7416299.


No.2021-24

執筆担当:関西福祉科学大学 保健医療学部 リハビリテーション学科 梛野浩司

掲載:2021年9月29日


【論文の概要】

 迷走神経電気刺激は外科的に電極を埋め込み、迷走神経を刺激する介入方法で脳卒中後の上肢運動機能を高める効果があることが報告されている。この迷走神経電気刺激を経皮的に行う方法として、耳介に電極を貼付して迷走神経の耳介枝を介して刺激する方法がある。本研究では、亜急性期脳卒中片麻痺患者を対象に、プラセボ群と経皮的耳介迷走神経刺激(taVAS)群に無作為割付を行い、その効果を比較検討したものである。

 対象は初発虚血性脳卒中で、発症から0.5~3カ月で指示理解が可能な片麻痺患者とし、重篤な内部障害を有するものや安静時心拍数が60/分以下のものは除外した。taVASは左耳の耳甲介部に電極を貼付し、パラメータは周波数20Hz、パルス幅0.3msとし1日30分を15日間連続して実施した。プラセボ群は電極を貼付するが電気刺激は行わない状態を30分おこなった。両群ともに刺激後、従来のリハビリテーション介入を実施した。

 評価項目はFugl-Meyer上肢、Wolf motor function test(WMFT)、FIM、Brunnstrom stage上肢とし、ベースライン、介入後、介入4週後、介入12週後で評価を行った。

 結果は21人の患者が本研究に参加し、taVNS群10名、sham-taVNS群11名に割り付けた。両群間において年齢、性別、発症からの期間、麻痺側、収縮期血圧(SBP)、拡張期血圧(DBP)、心拍数(HR)に有意な差はなかった。介入開始前に置いて両群間でFMA-U、WMFT、FIM、Brunnstrom scoreに有意な差はなかった。介入後において両群とも介入前と比較してBrnnstrom score以外全て有意に改善した。FMA-U、WMFT、FIMの改善はtaVNS群においてsham-taVNS群より有意に改善していた。

 長期効果について、両群ともベースラインよりもFMA-Uにおいて改善を維持しており、taVNS群やsham-taVNS群を比較すると有意な差が認められた。

 有害事象は全ての介入の中で1度だけ電極貼付部の皮膚が発赤する事象が確認されたが、6時間後には正常に戻っていた。

 HRについては介入前後および両群間で有意な差は認めなかった。DBPについても同様の結果であった。SBPについては介入前後*群間の交互作用が確認され、介入前後に主効果を認めた。しかし、SBPの変動は軽度なものであった。


【解説】

 迷路神経刺激は1980年代から報告がなされ、動物実験では脳梗塞領域の縮小、前足機能の向上などが報告されている1,2)。ヒトで初めて行われた研究では、脳梗塞患者に対してVNSとリハビリを組み合わせ、その効果を報告している。しかし、VNSでは副作用も多く、約半数において再度手術を要するなどが報告されている。その点、経皮的VNSは安全でコンプライアンスの高い介入方法で、有害事象はほとんどない。経皮的VNSには耳に電極を貼付して迷走神経耳介枝を刺激するtaVNSと迷走神経頸部枝を刺激するtcVNSがある。本論文では耳に電極をあて刺激するものであった。

 もともと迷走神経への電気刺激はてんかん発作の治療として確立されている3)。今回のように脳梗塞後の機能回復に応用されるのここ数年のことであり、まだまだ研究を必要とする分野である。

 今回の論文においてもサンプル数が少なく、十分なエビデンスの確立にはまだまだであり今後の研究が期待される。


【引用・参考文献】

1) I. Ay, R. Nasser, B. Simon, and H. Ay, “Transcutaneous cervical vagus nerve stimulation ameliorates acute ischemic injury in rats,” Brain Stimulation, vol. 9, no. 2, pp. 166–173, 2016.

2) I. Ay, J. Lu, H. Ay, and A. Gregory Sorensen, “Vagus nerve stimulation reduces infarct size in rat focal cerebral ischemia,” Neuroscience Letters, vol. 459, no. 3, pp. 147–151, 2009.

3) 原 恵子.迷走神経刺激のてんかんにおける適応.臨床神経生理学.43(4), 166-169, 2015.


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