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慢性耳鳴りに対する経皮的迷走神経刺激の刺激強度

Characteristics of Stimulus Intensity in Transcutaneous Vagus Nerve Stimulation for Chronic Tinnitus.

Won Choi Suk, Su Jin Kim, Dong Sik Chang, and Ho Yun Lee

J Int Adv Otol. 2018 Aug; 14(2): 267–272.

PMCID: PMC6354472. doi: 10.5152/iao.2018.3977


No.2023-09

執筆担当: 福井 直樹 和歌山リハビリテーション専門職大学

掲載:2023年11月30日


【論文の概要】

迷走神経は心臓、肺、消化器官への副交感神経支配、嚥下や発声などの分枝運動機能、体性感覚や内臓感覚など、全身のさまざまな機能の制御に関与している。頸部迷走神経刺激(VNS)は、難治性てんかんやうつ病の治療薬として米国で承認されている。その作用機序は網様体賦活系、中枢自律神経ネットワーク、大脳辺縁系、びまん性ノルアドレナリン作動性投射系の活動の変化が考えられている。近年、迷走神経耳介枝(ABVN)の非侵襲的経皮的VNS(tVNS)が注目され、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)スキャンにより、tVNS後に大脳辺縁系(扁桃体、海馬、海馬傍回)の不活化が観察されている。この所見は、頸部VNSを調査した研究と同様であった。

耳鳴りは、外的要因のない音響知覚を指し、tVNSとクラシック音楽の併用によって効果を示す予備的研究が行われている。他の研究で刺激強度の異なる基準が使用されているが、刺激部位の最適な位置については研究されていない。当研究は、「各部位において、痛みを感じることなく耐えられる最大感覚閾値が、耳鳴りの特徴に関連し、治療成績に影響する」という仮説を立て、前向き観察研究を行っている。

対象は3ヵ月以上持続する片側性・非拍動性・自覚的耳鳴りを訴える24名の患者。tVNSは経皮的電気神経刺激装置を用い、パルス幅200μs・周波数30Hz・刺激部位は順番にcavum, cymba, tragusの表面とし、4分間刺激している。評価は耳鳴りの苦痛をTinnitus Handicap Inventory(THI)、Beck Depression Inventory(BDI)、耳鳴りの大きさ、自覚度、煩わしさ、生活への影響を視覚的アナログスケール(VAS)を用いて評価した。統計分析は治療後のVAS、THI、BDI得点の変化は、Wilcoxon符号順位検定を用いて比較した。刺激強度とVASの相関は、スピアマン相関分析を用いて評価した。また反復測定分散分析(ANOVA)を用いて、経時的な各刺激部位における刺激強度の差を評価した。結果、tragusの平均最大感覚閾値は5.79 mAであり、これはcymba(4.98 mA)やcavum(5.1 mA)よりも高い傾向にあった。治療後の耳鳴りの苦痛を示すVASスコアはすべて改善した(p<0.05)


【解説】

慢性耳鳴りの治療に対するtVNSの実行可能性を探るために各部位ごとにtVNSの刺激強度の効果を評価した研究である。当研究では、多くの先行研究で見落とされがちであった刺激強度が治療成績に及ぼす影響を検討し、最適な刺激部位と強度を同定している。初期VASスコアと刺激強度の間には正の相関が存在するものの、刺激強度が治療成績に及ぼす影響は限定的であると思われる。他の研究では、tVNSの治療効果の根底にあるメカニズムについて、孤束核NTS、青斑核(LC)のノルアドレナリン作動性およびセロトニン作動性の相互作用に由来するのではないかという仮説を提唱している(1)。また他の研究では、健常者の4つの刺激部位-内耳道、外耳道内側壁、蝸牛、耳小葉-を比較し、最適なtVNS部位を確認している(2)。当研究では反応者はセッション間で刺激強度の変化を示し、初回の刺激強度がVASスコアと最も相関することを発見しているが、複数回のセッション後には相関は観察されなかった。初回の相関は、tVNSの治療効果を支持する証拠となるか、主観的な耳鳴りの苦痛に比例した改善に対する患者の期待(プラセボ)を反映している可能性がある。複数回のセッション後の相関に関しては、tVNSの反復による電気刺激耐性が起こった可能性が考えられる(3) 。


【引用・参考文献】

1). Lehtimäki J, Hyvärinen P, Ylikoski M, Bergholm M, Mäkelä JP, Aarnisalo A, et al. Transcutaneous vagus nerve stimulation in tinnitus: a pilot study. Acta Otolaryngol. 2012;133:378–82.

2). Yakunina N, Kim SS, Nam EC. Optimization of transcutaneous vagus erve stimulation using functional MRI. Neuromodulation. 2017;20:290–300.

3). Chandran P, Sluka KA. Development of opioid tolerance with repeated transcutaneous electrical nerve stimulation administration. Pain. 2003;102:195–201.

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